二十四の瞳
二十四の瞳
阅读时间:2025年3月5日
主要人物
- 大石久子 おおいし ひさこ
- 岡田磯吉 おかだ いそきち(そんき)
- 竹下竹一 たけした たけいちく
- 徳田吉次 とくだ きちじ(きっちん)
- 相沢仁太 あいざわ にた
- 森岡正 もりおか ただし(たんこ) 網元
- 川本松江 かわもと まつえ(まっちゃん) 大工
- 西口ミサ子 にしぐち みさこ(みいさん)
- 香川マスノ かがわ ますの(まあちゃん) 料理屋
- 木下富士子 きのした ふじこ
- 山石早苗 やまいし さなえ
- 加部小ツル かべ こつる
- 片桐コトエ かたぎり ことえ
語彙
一 小石先生
- 寒村 かんそん 荒村,贫寒的乡村。 昭和三年四月四日、農山漁村(のうさんぎょそん)の名が全部あてはまるような、瀬戸内海(せとないかい)べりの一寒村へ、若い女の先生が赴任ふにんしてきた。
- わらぞうり 稻草鞋。 手作りのわらぞうりは一日できれた。
- ぞんざい 粗糙,草率,马虎。 わざとぞんざいに、ヤツよばわりをするのは、高等科──今の新制中学生にあたる男の子どもたちだ。
- 万屋町 よろずや 杂货店,百货店。 よろずやのおかみさんはあわてて、となりの大工(だいく)さんとこへ走りこみ、井戸ばたでせんたくものをつけているおかみさんに大声でいった。
- 変わり種 かわりだね 奇特的人,有特色的人。 子どももなく年とった奥さんと二人で、貯金だけをたのしみに、倹約(けんやく)にくらしているような人だから、人のいやがるこのふべんな岬の村へきたのも、つきあいがなくてよいと、じぶんからの希望であったという変り種だった。
- よそごと 与己无关的事,别人的事。 普通選挙がおこなわれても、それをよそごとに思っているへんぴな村のことである。
二 魔法の橋
- あけっぴろげ 開けっ広げ 直爽坦率。 あけっぴろげの窓から、海風が流れこんできて、もうあと二日で夏休みになるよろこびが、からだじゅうにしみこむような気がした。
- 邪険 じゃけん 无情,没有怜悯之心,冷冰冰。 そうと気がつくと、なんとなくあらしをふくんだ風が、じゃけんに頬をなぐり、潮っぽい香りをぞんぶんにただよわせている。
- 波止場 はとば 码头。 取っ付き とっつき 最前面、第一个、头一个场所、位置的最跟前。 初次见面的印象,第一印象。 村のとっつきの小さな波止場では、波止場のすぐ入り口で漁船がてんぷくして、鯨の背のような船底(ふなぞこ)を見せているし、波止場にはいれなかったのか、道路の上にも幾隻(いくせき)かの船があげられていた。
- 奇抜 きばつ 出奇,奇特;奇异;离奇;新奇;新颖,出人意表『成』,希奇古怪『成』。 あんまりきばつな答えに、先生は涙を出して笑った。先生だけでなく、ほかの生徒も笑ったのだ。
- 駆け付ける かけつける 跑去;跑来;跑到;急忙赶到(目的地)。 かけつけた男先生にきかれて、女先生はだまってうなずいた。
- 揉み療治 もみりょうじ 推拿,按摩。 「骨は、折れとらんと思いますが、早く医者にかかるか、もみりょうじしたほうがよろしいで」
三 米五ン合豆一升
- 合 ごう 日本度量衡制尺贯法中的体积单位,1升的十分之一或坪或步的十分之一。 升 しょう 尺貫法の体積の単位。合の一〇倍。斗の一〇分の一。時代によって量が異なる。1891年(明治24)、一升を約1.8039リットルと定めた。
- 当たり散らす あたりちらす(对周围的人胡乱)发脾气,撒气。 木曜日ごろになると、もう男先生は土曜日の三時間目が気になりだし、そのために、きゅうに気短かになって、ちょっとのことで生徒にあたりちらした。
- 恨めしい うらめしい 可恨,有怨气。 遗憾,可惜。 人にきかれたら困るとでもいうようにないしょ声でいって、うらめしそうに、ちらりと海のむこうを見た。一本松の村も静かにねむっているらしく、星くずのような遠い灯がかすかにまたたいている。こんな夜ふけに、こんな苦労をしているのはじぶんたちだけだと思うと、女先生がうらめしかった。
- 氏神 うじがみ 出生地守护神,地方守护神。 その途中にある本村の氏神さまへは、毎年の祭りに、歩いたり、船にのったりしてゆくのだが、そこから先がどのくらいなのか、だれも知らない。
- 割り出す わりだす 推论,推断。算出。 ただ、ともかくも仁太だけがバスにのったことと、一本松のまだつぎの町でおりるまで、まんじゅう一つを食べるまがなかったことと、この二つからわりだして、氏神さまから一本松までの遠さを、たいしたことではないと思った。
- 数え年 かぞえどし 虚岁。 数え年五つぐらいから彼女は子守り役を引きうけさせられていたのだ。
- 銭 ぜに 钱货币的俗称。 「銭もないのに、どうして」
- 気前 きまえ 大方,气派,气度,慷慨不吝惜财物、不惜花钱的脾性。 それを気前よくみんなに少しずつ分けてやりながら、いちばんうれしそうな顔をしていた。
- すばしこい (行动)敏捷,利落,灵利,灵活。 マスノの一声は、あとの十一人を猿のようにすばしこくさせ、萱山(かややま)の中へ走りこませた。
- 初秋 しょしゅう 初秋の空は晴れわたって、午後の陽ざしはこの幼い一団を、白くかわいた道のまん中に、異様さをみせてうしろから照らしていた。
- 口火 くちび 起因,原因。 口火を切る。 开端;开头;开始发言。 仁太が口火をきったので、それでみんなも口ぐちにいいだした。
- てんてこ舞い てんてこまい 手忙脚乱,忙得不可开交。 松葉杖をとりまいて歩きながら先生の家へゆくと、先生のお母さんもすっかりおどろいて、きゅうにてんてこまいになった。かまどの下をたきつけるやら、何度も外に走りだすやら、そうして一時間ほども先生の家にいただろうか。
- 時ならぬ ときならぬ 意外,突然,不合季节。 時ならぬ沖合(おきあい)からの叫びに、岬(みさき)の村の人たちは、どぎもをぬかれたのである。
四 わかれ
- 計らい はからい 处置,处理;裁夺,斡旋。 しかし、大石先生としては、せっかくのこの校長先生のはからいが、あんまりうれしくなかったのだ。
- 老朽 ろうきゅう 老朽;陈旧,破旧。 「いろいろ、あってね。老朽で来年はやめてもらう番になっていたところを、岬へいけば、三年ぐらいのびるからね。そういったら、よろこんで、承知しましたよ」
- 行き届く いきとどく 周到,周密,彻底,无微不至。 「どうもほんとに、わたしが行きとどきませんでな。つい、ひとりっ子であまえさせたらしく、失礼なことばっかり申しまして。これでも、学校のことだけはあなた、寝てもさめても考えとりますふうで、早く出たい出たいと申しとりましたんです。おかげさまで、本校のほうにかわらしていただけましたから、もう十日もしたら、バスにのって、かよえると思います。こんな、気ままものですけど、どうぞもう、よろしゅうお願いいたします」
- おしゃま (少女的)早熟,像大人样。 今ごろ、あの子どもたちはどうしているだろうか。自転車でかよっていたとき、よろずやの前にさしかかると、あわてて走りだしてきていた松江、よく、波止場の上まで出てきて待ちうけていたソンキ、三日に一度はちこくする仁太、おしゃまのマスノ、えんりょやの早苗、一学期に二度も教室で小便をもらした吉次、と、ひとりひとりの上に思いをめぐらしながら、よくぞあのチビどもが、思いきって一本松までこられたものだと思うと、あの日の、ほこりにまみれた足もとなど、思いだされて、いとしさに、からだがふるえるほどだった。
- 痺れを切らす しびれをきらす 等得不耐烦。 笑いかけてもわからぬらしい。しびれをきらして思わず片手があがると、がやがやはきゅうに大きくなって、叫びだした。
- 屁の河童 へのかっぱ 轻而易举,不在话下。 「そんなら先生、船できたら。ぼく、毎日迎えにいってやる。一本松ぐらい、へのかっぱじゃ」
- 鬨 とき 多数人一齐发出的喊声。 鬨の声 ときのこえ わあっと、また、ときの声があがる。
- 殿 しんがり 最后,末尾(的人);殿军。 一ばんしんがりの男先生は、怪我の日以来ほこりをかぶっている女先生の自転車を押していった。道で出あった村の人も浜までついてきた。
- 言葉の綾 ことばのあや 措词,修辞。 最後に仁太の声で、あとはもう、ことばのあやもわからなくなった。
- 歌声 うたごえ 櫓(ろ)の音だけの海の上で、子どもたちの歌声は耳によみがえり、つぶらな目の輝(かがや)きはまぶたの奥(おく)に消えなかった。
五 花の絵
- 倹約 けんやく 节约,节省,俭省,俭约。 それが世界につながるものとはしらず、ただだれのせいでもなく世の中が不景気になり、けんやくしなければならぬ、ということだけがはっきりわかっていた。
- 打てば響く うてばひびく 立竿见影。马上有回应。 うてばひびく早さで、小ツルが応じた。
- 和む なごむ (表情等)稳静,温柔,平静下来,温和起来;(气候等)温和,缓和。 仁太のことはもう、ひとまず流して、心はいつかなごんでいた。松江にとってもまた、その数倍のよろこびだった。
- 諂う へつらう 阿谀,逢迎,谄媚,奉承。 彼女はみんなに、松江がひいきしてもらうために、ひとりで小石先生にへつらったといったのである。
六 月夜の蟹
- 月夜 つきよ 月夜の蟹 〔月夜には蟹は餌をあさらないので肉がないということから〕 やせて肉のない蟹。転じて,中身のないことのたとえ。
- ことづける 托人带口信,托人捎东西。 手紙は松江の家といちばん近いコトエにことづけた。しかしこの手紙が、松江にとってどれほど無理な注文であるかを先生は知っていた。
- 我がち われがち (多く「に」を伴って副詞的に使う) 人に負けまいとするさま。先を争うさま。 争先恐后地。 三角形の空地にある杏の木は夏にむかって青々としげり、黒いかげを土手の上におとしている。そのま下にかたまって、岬組の女生徒たちはズガニの勇士を迎え、われがちにいった。
- 頭を振る かぶりをふる 頭を左右に振り,不承知・否定の意を表す。 「そう、マッちゃん、うれしそうだった?」 コトエは答えずに、かぶりをふった。
- 忠君愛国 ちゅうくんあいこく ま、とにかく、われわれは忠君愛国でいこう。
- 見出し みだし 标题,题目。(新聞・雑誌などの記事の標題。) 玄翁 げんのう (碎石用)铁锤,碎石锤。 どやす 捶、敲击、打、揍。 训斥。 翌日の新聞は、稲川先生のことを大きな見出しで「純真なる魂(たましい)を蝕む赤い教師」と報じていた。それは田舎の人びとの頭を玄翁でどやしたほどのおどろきであった。
- 沈香も焚かず屁もひらず じんこうもたかず、へもひらず 不求无功、但求无过。 「あ、こわい、こわい。沈香もたかず、屁もこかずにいるんだな」
- プロレタリヤ Proletarier无产阶级,无产者,劳动者,穷人。 「プロレタリヤって、知ってる人?」
- 時節柄 じせつがら 鉴于时势,鉴于目前局势;鉴于这种季节。 六年生の秋の修学旅行は、時節がらいつもの伊勢まいりをとりやめて、近くの金毘羅(こんぴら)ということにきまった。
- 桃割れ ももわれ 裂桃式顶髻。 女性の髪形の一。後頭部で髪を二つの輪にまとめ、桃のような形の髷(まげ)に結ったもの。明治初期から中期にかけて、16、7歳の少女に流行。 はいってきた客に、いきなり話しかけられ、桃われの少女はいきをのんで一足さがった。
七 羽ばたき
- 躓く つまずく 栽跟头,失败,受挫,受到挫折因事情中途遇到障碍而不能顺利进行下去,中途失败。 修学旅行から大石先生の健康はつまずいたようだった。三学期にはいってまもなくのこと、二十日近く学校を休んでいる大石先生の枕もとへ、ある朝一通のはがきがとどいた。
- 小夜奈良 さよなら
- 当て字 あてじ 借用字,音译字,假借字〔借字〕。 「さよならを、ほら、こんなあて字がはやってるんよ、お母さん」
- 口八丁 くちはっちょう 嘴头儿巧,能説会道(的人),油嘴滑舌。 「そうかしら、わたし、そんなに口八丁?」
- あなた任せ あなたまかせ 听凭他人,听其自然。〈佛〉一切靠老佛爷保佑。 いよいよ、こんどこそ家屋敷が人手に渡るという噂も、卒業のさしせまった富士子の動きをきめられなくしているのだろうと思うと、コトエと同様、あなたまかせの運命が彼女を待ちうけていそうであわれだった。
- 含蓄 がんちく 岬にむかってつぶやいてみた。それはおかしさとかなしさと、あたたかさが同時にこみあげてくるような、そしてもっと含蓄のあることばであった。
八 七重八重
- 七重八重 ななえやえ 幾重にも重なっていること。また,そのもの。 繁复;层层叠叠。
- 歳月 さいげつ じまんらしく富士子をかさねていう。しかし先生はわざとそれに乗らず、とりかこまれた青年の姿をあおぐようにして眺めまわした。八年の歳月は、小さな少年を見あげるばかりのたくましさに育てている。
- 遊び女 あそびめ 艺妓,妓女,荡妇。 仁太が、富士子に会うた、というのは、遊び女としての富士子との出あいにちがいなかった。
- 照らし合わせる てらしあわせる 核对,对照,查对。 習わし 慣わし ならわし 习气,习俗,惯例。 年の瀬 としのせ 年底,年终,年关(结算期)。 春の徴兵適齢者(ちょうへいてきれいしゃ)たちは、報告書と照らしあわされて、品評会(ひんぴょうかい)の菜っ葉や大根のようにその場で兵種がきめられ、やがて年の瀬(せ)がせまるころ、カンコの声におくられて入営するのが古いころからの慣わしであった。
- 発言権 はつげんけん じぶんだけではないことで、発言権を投げすてさせられているたくさんの人たちが、もしも声をそろえたら。
- 山吹 やまぶき 〈植〉棣棠。 ただの日光をうけて、春寒(はるさ)むの道ばたにふくらむ山吹は、それでも、花だけは咲かせたろうに。……
九 泣きみそ先生
- 戦火 せんか 海も空も地の上も戦火から解放された終戦翌年の四月四日、この日朝はやく、一本松の村をこぎだした一隻(いっせき)の伝馬船(てんません)は、紺がすりのモンペ姿のひとりのやせて年とった小さな女を乗せて、岬の村の方へ進んでいった。
- 学徒 がくと 学徒は動員され、女子どもも勤労奉仕に出る。
- 年端もいかぬ としは 年幼的、未成年的。 かわいそうに、年端もいかぬ少年の心を、腹いっぱいのぜんざいでとらえ、航空兵(こうくうへい)をこころざした貧しい家の少年もいた。
- 呪い まじない 符咒,咒文,护身符,巫术,魔法。 「こんなもの、門にぶちつけて、なんのまじないになる。あほらしい」
十 ある晴れた日に
- 皆目 かいもく (下接否定语)完全…(不)。 「あの人こそ先生、かいもく行方不明ですわ。なんでも戦時中、成金さんにうけだされて出世したという噂もありましたけど、どうせ軍需(ぐんじゅ)会社でしょうから、今はどうなりましたか……」
- 恥も外聞もない 外聞 がいぶん 不顾羞耻,不顾体面。不体面。 「マスノさんから手紙もらいましてな、こんなときをはずしたら、もう一生仲間はずれじゃと思うて、恥も外聞もかなぐりすててとんできました。先生、かんにんしてください」
- 海千山千 うみせんやません 老江湖,老奸巨猾。 それが、男はみんなろくでもない目にあい、女は海千山千になってしもた。小ツやんや早苗さんじゃとて、やっぱり海千山千よ。
文句
- 十年をひと昔というならば、この物語の発端は今からふた昔半もまえのことになる。世の中のできごとはといえば、選挙の規則があらたまって、普通選挙法というのが生まれ、二月にその第一回の選挙がおこなわれた、二か月後のことになる。昭和三年四月四日、農山漁村(のうさんぎょそん)の名が全部あてはまるような、瀬戸内海(せとないかい)べりの一寒村へ、若い女の先生が赴任してきた。
- この瞳を、どうしてにごしてよいものか!
- 「天皇陛下はどこにいらっしゃいますか?」「天皇陛下は、押入れの中におります」
- 「そうよの。そんな村は、気心がわかったとなると、むちゃくちゃに人がようてのう」
- 同じ年に生まれ、同じ土地に育ち、同じ学校に入学した同い年の子どもが、こんなにせまい輪の中でさえ、もうその境遇は格段の差があるのだ。母に死なれたということで、はかりしれぬ境遇の中にほうり出された松江のゆくすえはどうなるのであろうか。彼女といっしょに巣立った早苗たちは、もう未来への羽ばたきを、それぞれの環境のなかで支度している。将来への希望について書かせたとき、早苗は教師と書いていた。子どもらしく先生と書かずに、教師と書いたところに早苗の精いっぱいさがあり、甘っちょろいあこがれなどではないものを感じさせた。六年生ともなれば、みんなはもうエンゼルのように小さな羽を背中につけて、力いっぱいに羽ばたいているのだ。
- 時代は人を三匹の猿にならえと強しいるのだ。口をふさぎ、目をつむり、耳をおさえていればよいというのだ。
- 肩かたをふって走ってゆくそのうしろ姿には、無心に明日へのびようとするけんめいさが感じられる。その可憐なうしろ姿の行く手にまちうけているものが、やはり戦争でしかないとすれば、人はなんのために子をうみ、愛し、育てるのだろう。砲弾にうたれ、裂けてくだけて散る人の命というものを、惜しみ悲しみ止どめることが、どうして、してはならないことなのだろう。治安を維持するとは、人の命を惜しみまもることではなく、人間の精神の自由をさえ、しばるというのか……。
- 塵芥 ちりあくた 尘芥,垃圾;无价值的东西,草芥。 今年小学校にあがるばかりの子の母でさえそれなのにと思うと、何十万何百万の日本の母たちの心というものが、どこかのはきだめに、ちりあくたのように捨てられ、マッチ一本で灰にされているような思いがした。
- 人のいのちを花になぞらえて、散ることだけが若人(わこうど)の究極の目的であり、つきぬ名誉であると教えられ、信じさせられていた子どもたちである。
- 男に生まれなかったことをまるでじぶんや母親の責任であるかのようにいった六年生のコトエの顔が浮かんでくる。希望どおり彼女が男に生まれていたとしても、今ごろは兵隊墓にいるかもしれないこの若いいのちを、遠慮もなく奪ったのはだれだ。また涙である。
- 混乱した世相はここにもあらわれて、罪もなく若い生命をうばわれた彼らの墓前に、花をまつるさえ忘れていることがわかった。花立ての椿はがらがらに枯れて午後の陽をうけている。きちんと区画した墓地に、墓標だけがならんでいる新らしい兵隊墓。人びとの暮しはそこへ石の墓を作って、せめてものなぐさめとする力も今はなくなっていることを、墓地は語っていた。
- じぶんの美声に聞きほれているかのようにマスノは目をつぶって歌った。それは、六年生のときの学芸会に、最後の番組として彼女が独唱し、それによって彼女の人気をあげた唱歌だった。早苗はいきなり、マスノの背にしがみついてむせび泣いた。
2025年4月28日读毕
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